事業継続力強化計画書で企業を守る!災害に負けない経営基盤の作り方

近年、自然災害の頻発化や新型コロナウイルスのようなパンデミック、さらにはサイバー攻撃の増加など、企業を取り巻くリスクは多様化・複雑化しています。特に中小企業にとって、これらの緊急事態は事業存続に直結する深刻な問題となり得ます。そんな中、注目を集めているのが「事業継続力強化計画書」という制度です。

この記事では、事業継続力強化計画書の基本的な仕組みから具体的な作成方法、認定を受けるメリットまでを詳しく解説します。初めて取り組む方でも理解できるよう、実践的なポイントも交えながらお伝えします。

事業継続力強化計画書とは?制度の概要と背景

制度の基本的な仕組み

事業継続力強化計画書は、中小企業・小規模事業者が自然災害や感染症、サイバー攻撃などの緊急事態に備えて策定する、簡易型のBCP(事業継続計画)です。2019年7月に施行された中小企業強靱化法に基づき、経済産業大臣による認定制度が設けられています。

従来のBCPと異なる点は、中小企業でも実行しやすいよう「最小限に絞って実行しやすく」設計されていることです。また、国の認定を受けることで様々な支援措置を活用できる点が大きな特徴となっています。認定の有効期間は原則5年間で、毎年の見直し(PDCA)を前提とした継続的な改善が求められます。

制度創設の背景

日本は世界有数の災害大国であり、地震、台風、豪雨などの自然災害が頻発しています。中小企業庁の調査によると、災害により事業停止を余儀なくされた中小企業の約4分の1が廃業に追い込まれているという現実があります。しかし、多くの中小企業では人的・資金的制約から十分な災害対策を講じることが困難な状況にありました。

こうした課題を解決するため、国が中小企業の事業継続力強化を積極的に支援する仕組みとして、この認定制度が創設されました。単に計画を策定するだけでなく、実効性のある対策を講じることで、真の意味での事業継続力向上を目指しています。

認定を受ける具体的なメリット

事業継続力強化計画書の認定を受けることで、以下のような多岐にわたるメリットを享受できます。

税制面での優遇措置

防災・減災設備への投資に対して、特別償却や税額控除の適用を受けることができます。具体的には、自家発電設備、排水ポンプ、貯水槽などの防災設備投資が対象となる場合があります。これにより、設備投資の負担を軽減しながら事業継続力を強化できます。

金融支援の充実

日本政策金融公庫による低利融資制度や、信用保証協会による保証枠の拡大などの支援を受けることができます。また、一般的な融資審査においても、リスク管理意識の高い企業として評価され、より有利な条件での資金調達が期待できます。

補助金での加点措置

ものづくり補助金やIT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などの各種補助金制度において、加点措置や優先採択の対象となる場合があります。これにより、設備投資やIT化推進などの取り組みを有利に進めることができます。

企業価値と信頼性の向上

認定を受けることで、取引先や顧客、金融機関に対してリスク管理意識の高い企業であることを客観的に示すことができます。特に大企業のサプライチェーンに組み込まれている中小企業にとって、事業継続能力の証明は重要な競争優位性となります。

従業員の安心感向上

災害時にも事業が継続され、雇用が守られるという安心感は、従業員のモチベーション向上や定着率の改善につながります。また、計画策定過程で従業員の安全確保が明確化されることで、企業に対する信頼感も高まります。

計画書作成の具体的なプロセス

事業継続力強化計画書の作成は、以下の6つのステップで進めることができます。

ステップ1:重要業務の特定

まず、自社の事業において「絶対に止められない業務」を3つ以内に絞り込みます。売上への影響度や社会的責任の観点から優先順位を付け、例えば「受注対応」「製造」「出荷」といった中核業務を明確にします。各業務について、目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)も設定します。

ステップ2:リスクの把握と被害想定

自社を取り巻く具体的なリスクを洗い出します。地域のハザードマップを活用して地震、水害、土砂災害の可能性を確認し、さらに感染症の拡大やサイバー攻撃なども考慮します。重要なのは「最悪のシナリオ」ではなく「現実的に起こり得るシナリオ」を1〜2つ想定することです。

ステップ3:初動対応体制の構築

災害発生時の指揮命令系統、代行者、非常時連絡網を明確に定めます。安否確認の方法、被害状況の確認手順、事業停止・再開の判断基準、代替拠点への切り替え手順などを具体的に文書化します。

ステップ4:代替策の準備

人・物・金・情報の各リソースについて代替手段を確保します。協力企業との受託製造契約、複数の調達先確保、クラウドサービスの活用、オフラインバックアップの実施など、「二重化」を意識した対策を講じます。

ステップ5:必要なリソースの整備

非常用備蓄(水・食料3日分)、非常用電源・UPS、通信手段の確保、重要データのバックアップ体制、在宅勤務環境の整備、建物の耐震・止水対策、適切な保険への加入などを進めます。

ステップ6:訓練計画と継続的改善

年2回程度の初動訓練、安否確認訓練、机上演習などの実施計画を策定します。また、毎年決まった時期に計画の見直しを行うPDCAサイクルを確立します。

審査を通過するための重要ポイント

認定審査では、以下の点が重視されます。

現実性と実行可能性

計画に記載する対策は、自社で実際に実行可能なものに限定します。社内にない設備や実現困難な手順を記載すると、計画の信頼性が損なわれます。現在の備蓄状況、契約関係、バックアップ体制などと整合性を保つことが重要です。

簡潔性と明確性

長文よりも時系列フローと箇条書きを活用し、誰が見ても同じ行動ができるよう明確に記述します。特に初動対応については「誰が・何を・いつまでに」を具体的に示すことが求められます。

代替性の確保

人・拠点・調達・ITシステムのそれぞれについて、最低でも一つずつの代替手段を用意します。単一障害点(Single Point of Failure)を可能な限り排除することが重要です。

継続的改善の仕組み

訓練計画と見直し時期を必ず明記し、PDCAサイクルによる継続的改善の仕組みを示します。「随時見直し」ではなく、具体的な日程を設定することが重要です。

よくある失敗例と対策

計画書作成でよく見られる失敗例として、以下のようなものがあります:

  • 重要業務を10個以上列挙してしまい、優先順位が不明確になる
  • 連絡手段が一系統のみで、通信障害時の対応ができない
  • クラウドサービスに依存しているが、バックアップのテストを実施していない
  • 具体的なRTOを設定せず、「可能な限り早期に」といった曖昧な表現を使用
  • 訓練計画が「随時実施」のみで、具体的な実施時期が不明

これらの失敗を避けるためには、計画策定時に社内の関係者と十分に協議し、実際の運用を想定した現実的な計画を立てることが重要です。

業種別の対策例

製造業の場合

重要な金型や治具の遠隔地保管、重要部品の安全在庫確保、停電時の手作業による出荷ラベル作成手順、圧縮空気や蒸気の仮設供給体制などが効果的です。

小売業・卸売業の場合

POSシステム停止時の手書き精算手順、EC在庫の一元管理システム、倉庫の高所保管・止水板設置、配送事業者の複数確保などが重要となります。

IT・サービス業の場合

災害復旧(DR)サイトの設計、障害時の顧客コミュニケーション体制、サポート業務のBCP要員交代制、重要データの別リージョンでのバックアップなどが求められます。

まとめ:持続可能な経営基盤の構築に向けて

事業継続力強化計画書は、単なる災害対策を超えて、企業の持続可能な経営基盤を構築するための重要なツールです。認定を受けることで得られる各種支援措置を活用しながら、真の意味での事業継続力を身につけることができます。

計画策定のプロセスを通じて、自社の強みや弱みを再認識し、平時の経営改善にもつなげることができます。また、従業員や取引先との信頼関係強化、企業価値の向上など、多面的な効果が期待できます。

災害はいつ発生するか予測できませんが、事前の備えによってその影響を最小限に抑えることは可能です。この機会に、ぜひ事業継続力強化計画書の作成に取り組み、災害に負けない強靭な企業体質を構築してみてはいかがでしょうか。

制度の詳細や最新の申請方法については、中小企業庁の公式ウェブサイトで確認できます。また、商工会議所や商工会などの支援機関でも策定支援を受けることができますので、積極的に活用することをお勧めします。