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第2回:【準備編】製造現場と経営層を巻き込む策定体制の構築

冒頭要約

事業継続力強化計画書の策定成功は、適切な体制構築にかかっています。製造業においては、経営層の戦略的判断と製造現場の実務知識を融合させることが不可欠です。本稿では、関東圏の中小製造業を対象に、全社的な協力体制の構築方法、効果的なチーム編成、経営層のコミットメント確保戦略、外部専門家の活用判断、そして補助金加点を見据えた実践的なスケジュール管理まで、認定取得に向けた具体的な準備手順を解説します。単独部門での策定では現場との乖離が生じがちですが、適切な体制により実効性の高い計画書を8-12週間で完成させることが可能です。

なぜ全社的な策定体制が必要なのか

事業継続力強化計画書は、災害や危機発生時に「止まっても素早く再開する」ための実践的な行動指針です。特定の部署に任せきりにした場合、以下のような致命的な問題が発生します。

現場実態との乖離による実効性の欠如:
製造現場の具体的な工程特性、設備の脆弱性、作業者の暗黙知、実際の復旧手順などが計画に反映されず、緊急時に「使えない計画書」となってしまいます。

非現実的な復旧目標設定:
現場の実際の能力やリソース制約を考慮しない、机上の空論的な復旧時間目標(RTO)や復旧ポイント目標(RPO)が設定され、実際の災害時に機能しません。

部門間連携の欠如:
危機発生時に各部門がバラバラに行動し、情報共有の遅延や重複作業により、復旧が大幅に遅れる可能性があります。

経営層の関心低下とリソース不足:
経営層が計画の重要性を十分に認識せず、必要な予算、人員、権限が適切に配分されない状況が生じます。

これらの問題を回避し、認定取得と補助金加点という明確な目標を達成するためには、全社的な視点での協力体制が不可欠となります。

製造業に最適化された策定チーム編成

核となる策定体制の設計

効果的な策定体制は、明確な責任分担と意思決定フローを持つ階層構造で構築します。

総括責任者(経営者・代表取締役):
計画書策定の最高責任者として、全体方針の決定、重要なリスク評価結果の承認、必要リソースの配分決定を行います。月1回の進捗レビュー会議を主宰し、戦略的な意思決定に関与します。

事務局(総務・経営企画部門):
プロジェクト全体の進行管理、各部門間の調整、情報収集と整理、計画書のドラフト作成、認定申請事務を担当します。週次進捗会議の運営と議事録管理、外部専門家との窓口機能も果たします。

コアメンバー(各部門代表者):
以下の部門から実務責任者レベルの代表者を選出し、専門知識と現場の声を計画に反映させます。

  • 生産・製造部門: 製造工程の詳細分析、設備重要度評価、代替生産手段の検討、復旧手順の策定
  • 技術・品質保証部門: 製品品質維持方法、技術的復旧手順、品質基準の緊急時対応
  • 購買・調達部門: サプライヤー評価、代替調達先開拓、在庫戦略見直し
  • 情報システム部門: ITシステム継続性確保、サイバーセキュリティ対策、データバックアップ・復旧計画

製造現場の知見を最大限活用する仕組み

製造現場には、長年の経験から培われた貴重な「暗黙知」が蓄積されています。これを体系的に収集し、計画書に反映させる仕組みを構築します。

段階的現場ヒアリング体制:
各製造工程の熟練作業者から、設備の特性、故障時の対応方法、代替手段の可能性について詳細なヒアリングを実施します。特に、マニュアル化されていない経験則や勘所の収集に重点を置きます。

現場視察による実態把握:
実際の設備や生産ラインを策定チームで共同視察し、潜在的な脆弱性や復旧時の物理的制約を具体的に把握します。写真・動画を活用した記録化も重要です。

「もしも」シナリオワークショップ:
特定の設備停止、重要部品の調達停止、主要技能者の不在など、具体的な危機シナリオを設定し、現場レベルでの対応策を集合知で検討します。

経営層のコミットメント確保戦略

経営層の強いコミットメントは、計画書策定プロジェクトの成否を決定的に左右します。

財務的メリットの定量化による訴求

税制優遇効果の具体的試算:
認定取得による20%特別償却の節税効果を具体的に算出します。例えば、設備投資1億円の場合、特別償却2,000万円に法人税率23.2%を適用すると、約464万円の税負担軽減効果が見込まれます。

$$節税効果 = 設備投資額 \times 特別償却率 \times 法人税率$$
$$= 100,000,000 \times 0.20 \times 0.232 = 4,640,000円$$

補助金加点による採択率向上効果:
ものづくり補助金、事業再構築補助金等において、事業継続力強化計画の認定は重要な加点要素となります。採択率向上による経済効果を具体的に試算し、投資対効果を明確化します。

リスク回避による損失防止効果:
過去の災害事例(東日本大震災、令和元年台風19号等)を基に、事業停止による売上損失、復旧コスト、顧客離れによる将来売上への影響を試算し、計画書策定投資との費用対効果を提示します。

経営層の関与レベル設定

戦略的意思決定への参画:
重要なリスク評価結果、大規模投資を伴う対策、事業継続戦略の方向性については、経営層による最終決定を仰ぐ体制を明確化します。

定期的な進捗レビュー:
月1回の経営レビュー会議で進捗報告を行い、経営層の継続的な関心と支援を確保します。

外部専門家の戦略的活用

活用判断の基準

中小企業の限られたリソースを考慮し、以下の基準で外部専門家活用の必要性を判断します。

社内リソースの制約:
策定に必要な専門知識(BIA手法、リスク評価、サイバーセキュリティ等)が社内に不足している場合、外部専門家の活用を検討します。

認定確実性の向上:
一発での認定取得を確実にするため、認定実績豊富な専門家によるレビューと助言を受けることを推奨します。

専門家選定のポイント

製造業での実務経験:
単なる理論的知識ではなく、製造業での実際のBCP策定・運用経験を有する専門家を選定します。同業種や類似する製造工程での経験があることが重要です。

地域特性への精通:
関東圏の地域特性(首都直下地震、荒川・多摩川流域水害、産業集積状況)を熟知し、地域の他企業との連携についても助言できる専門家が望ましいです。

知識移転の重視:
専門家に依存するのではなく、社内への知識移転を重視し、将来的に自社で計画書の見直しや改善ができる体制構築を支援してもらいます。

実践的な策定スケジュールと工程管理

標準的な策定スケジュール(8-12週間モデル)

第1-2週:体制構築・準備段階

  • 策定チーム編成と役割分担の明確化
  • キックオフ会議開催と全社への周知
  • 必要資料の洗い出しと収集依頼

第3-5週:現状分析・リスク評価段階

  • 現場ヒアリングと業務プロセス棚卸し
  • 地域ハザード情報収集と影響評価
  • 重要業務の特定とBIA実施

第6-8週:対策検討・計画策定段階

  • 事業継続戦略の策定
  • 具体的対策の検討と実行可能性評価
  • 計画書ドラフト作成

第9-10週:最終化・承認段階

  • 内容の最終確認と経営層レビュー
  • 必要に応じた修正と承認取得

第11-12週:申請・提出段階

  • 認定申請書類の整備
  • 所轄経済産業局への提出

進捗管理とリスク対応

週次進捗会議:
策定チーム全体での週次進捗確認会議を開催し、遅延要因の早期発見と対策を実施します。

マイルストーン管理:
各段階の完了基準を明確に定義し、客観的な進捗評価を行います。

制約要因への事前対応:
関係者の多忙期(決算期、棚卸時期)、設備点検時期、大型受注案件などの制約要因を事前に把握し、スケジュール調整を行います。

既存マネジメントシステムとの整合性確保

多くの製造業で導入されているISO9001(品質マネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)等の既存システムとの連携により、効率的な運用を実現します。

文書管理体系の統一:
既存の文書管理体系に事業継続関連文書を組み込み、一元的な管理を行います。

内部監査の統合:
品質監査、環境監査と事業継続監査を統合的に実施し、監査負荷の軽減と相乗効果を狙います。

継続的改善プロセスの活用:
既存のPDCAサイクルを事業継続力強化にも適用し、継続的な改善を図ります。

5分でできるチェックリスト

  • 経営者が総括責任者として正式に就任し、社内外に宣言している
  • 各部門のコアメンバーと現場代表が指名され、役割が明文化されている
  • 週次進捗会議と承認フローが設定されている
  • 共有フォルダの標準構成が整備され、アクセス権が付与されている
  • 必要資料リストが各部門に正式依頼されている(期限・形式明記)

今週のアクション

策定チーム組成:
各部門から適切な代表者を選出し、策定チームを正式に組成します。各メンバーの役割と責任を明文化し、全員で共有してください。

キックオフ会議の開催:
経営層主導でキックオフ会議を開催し、計画書策定の目的、期待される成果、スケジュール、各自の役割について共通認識を形成してください。

地域ハザード情報の収集:
国土交通省ハザードマップポータル、東京都・神奈川県・埼玉県の地震・水害想定資料を入手し、自社工場・倉庫・主要サプライヤーの所在地と照合して整理してください。

外部専門家候補の選定:
必要に応じて外部専門家の候補を2-3者に絞り、製造業実績と認定取得支援経験を確認し、守秘契約書案を準備してください。


次回第3回では「【リスク分析編】製造業特有の脅威評価と関東圏地域リスクの定量化」と題し、自社を取り巻く具体的なリスクを体系的に分析・評価する実践的手法について詳しく解説いたします。地域特性を踏まえたリスクマトリックスの作成により、計画書の基盤となる重要な情報を整理していきます。

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