「事業継続力強化計画」は災害や感染症、サイバー攻撃などのリスクが高まる現代において、資金調達・税負担軽減・金融支援をまとめて得られる国の認定制度です。
本記事では、補助金・融資・税制優遇という“三大メリット”の内容と活用方法を、申請フローや書類作成のコツまで徹底的に解説します。
特に、小規模事業者持続化補助金の加点や日本政策金融公庫の低利融資を狙う経営者・財務担当者は必読です。
事業継続力強化計画とは?BCPとの違いと制度の目的を解説
事業継続力強化計画(通称:ジギョケイ)は、中小企業等経営強化法にもとづき経済産業大臣が認定する制度です。
目的は、地震・台風・感染症・サイバー攻撃など不測の事態が発生しても事業を止めずに地域経済を守ること。
策定企業は防災・減災投資を行う際に税制特例、補助金加点、低利融資などの優遇措置を受けられ、レジリエンス向上と経営メリットを同時に得られます。
単独型と連携型の2種類があり、自社のみでも複数社連携でも申請可能です。
中小企業が今取り組むべき理由と背景
近年は異常気象や巨大地震の発生確率が高まり、企業活動に深刻な影響を及ぼしています。さらに、ランサムウェア攻撃などサイバー攻撃の脅威も企業活動を営むうえで無視できない状況にあります。
中小企業は資金・人材に余裕がなく、災害で設備が止まると一気に資金繰りが悪化するリスクが大きいのが実情です。
そのため国は、公的支援と優遇措置をセットにしたジギョケイを普及させ、地域経済の基盤を守ろうとしています。
さらに、顧客や大手サプライチェーンから「BCP整備」を求められる場面も増えており、ジギョケイ認定は取引継続の“信用状”にもなります。
事業継続計画(BCP)と何が違うのか?
BCPは企業が自主的に策定する包括的な危機管理計画で法的義務も認定制度もありません。
一方、事業継続力強化計画は中小企業庁が定める様式に沿って作成し、審査に通れば公的に“認定”される点が大きな違いです。
認定を受けると税制・補助金・融資の優遇のほか、自治体入札や取引交渉での信用向上が期待できます。
つまり、BCP=自社努力、ジギョケイ=国からのお墨付き+経済メリットと位置付けられます。
認定制度の基本フローとメリット
- ①リスク分析と対策を盛り込んだ計画書を作成(様式第1号)
- ②所轄の経済産業局または認定支援機関へ提出
- ③書類審査(平均1〜2か月)で認定通知書を受領
認定後は3年間の税制優遇、防災設備の即時償却、最大1.0%程度引き下げられた日本政策金融公庫の低利融資などが利用可能。
さらに、小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金・事業再構築補助金などで加点され、採択率アップに直結します。
三大優遇措置の全貌:補助金・税制優遇・低利融資を徹底比較
ジギョケイの経済支援は①補助金加点②防災・減災設備の税制特例③低利融資・信用保証の3本柱です。
それぞれ適用条件・金額上限・手続き窓口が異なるため、違いを把握して戦略的に組み合わせることが重要です。
以下の比較表で概要を整理し、自社の資金計画に最適な優遇を選びましょう。
| 優遇措置 | 主な内容 | 支援上限 | 申請窓口 |
|---|---|---|---|
| 補助金加点 | 持続化補助金・ものづくり補助金等で審査加点 | 補助率2/3 〜 3/4 | 各補助金事務局 |
| 税制優遇 | 特別償却20% または 税額控除10% | 設備取得額 全額対象 | 所轄税務署 |
| 低利融資 | 政策公庫・信金保証枠の金利引下げ | 設備資金7.2億円等 | 日本政策金融公庫 |
優遇措置① 小規模事業者持続化補助金などで資金調達
ジギョケイ認定を取得すると、小規模事業者持続化補助金の審査で「事業再開枠」や「災害対策加点」として高評価を得られます。
例えば通常枠での採択率が40%の回でも、ジギョケイ認定企業は60%超になるケースが報告されています。
補助上限も50万円→200万円へ引き上げられる特別枠が利用可能になり、販路開拓や防災投資を補助率2/3で実行できます。
また、ものづくり補助金・事業再構築補助金・IT導入補助金でも同様に加点され、複数の補助金を段階的に活用することで資金調達を加速できます。
優遇措置② 設備投資を後押しする税制措置と即時償却
防災・減災関連の機械・装置・備品を取得する場合、取得価額の20%を特別償却できるほか、最大10%の税額控除も選択可能です。
例えば1,000万円の自家発電装置を導入すると、即時に200万円を損金算入して法人税等を圧縮できます。
中小企業経営強化税制と併用すれば、キャッシュアウトを抑えつつ設備更新が可能です。
対象設備は「災害時に操業を継続するために必要」と判断される発電設備、止水板、耐震補強工事など多岐にわたります。
優遇措置③ 日本政策金融公庫の低利融資・信用保証
日本政策金融公庫の「中小企業事業」および「国民生活事業」では、ジギョケイ認定企業向けに設備資金の利率を0.9%程度まで引き下げる特例があります。
また、信用保証協会の一般保証とは別枠で2.8億円の保証枠が追加され、金融機関からの融資承認が得やすくなります。
公庫の貸付期間は最長20年、据置期間5年と長期資金にも対応しており、災害対策設備の導入に必要な大型投資を低コストで実施できます。
3つの支援を組み合わせた資金戦略シミュレーション
例えば総額3,000万円の防災投資を計画する場合、①小規模事業者持続化補助金200万円、②税制特例で法人税150万円削減、③政策公庫から2,000万円を年1.0%で借入するとキャッシュアウトは初年度実質650万円に抑えられます。
これにより自己資金を温存しつつBCP対応を実現し、取引先からの信用向上で売上拡大も期待できます。
補助金申請で採択率アップ!加点対象となる計画書の作成STEP
補助金は毎回応募倍率が高く、採択率をいかに高めるかが勝負です。
事業継続力強化計画を持っているだけで加点されますが、計画書の精度が低いとせっかくの優遇も十分に活かせません。
ここでは「公募要領→計画書→提出後フォロー」という三段階で、審査員が高評価を付けるストーリー構成とエビデンスの示し方を徹底解説します。
ハード対策(発電機・止水板等)とソフト対策(従業員教育・マニュアル整備)の両面を、売上向上と地域貢献につなげる論理展開がポイントです。
採択される計画書の構成と必須記載ポイント
採択率上位者の計画書を分析すると、①課題の定量把握②施策の具体性③KPIの妥当性④費用対効果の根拠――の四章立てが鉄板です。
例えば停電リスクを“年3回、平均2時間の操業停止=売上30万円損失”と数値化し、その損失を発電機導入により“ゼロ化”すると明記します。
さらに、数値根拠を示す資料(電力会社の過去停電統計、取引先ヒアリング記録)を別紙で添付し“信ぴょう性”を担保することも高評価につながります。
自然災害リスクの想定と初動体制をどう盛り込むか
審査員は“机上の空論”を嫌います。
ハザードマップを用いて「最大震度6強で自社建屋が半壊する確率○%」とリスクを定量化し、発災後60分以内の初動体制をタイムライン形式で記載しましょう。
具体的には「0〜10分:安否確認」「10〜30分:発電機起動」「30〜60分:主要ライン再稼働」のように担当者、代替要員、連絡系統を明記し、実効性を印象付けるのがコツです。
加点項目「連携体制」「防災・減災投資」の具体例
- 連携体制:地元消防署との訓練協定書、同業者3社による相互支援協定書を添付
- 防災投資:止水板100万円、非常用発電機500万円を計画に計上し、税制優遇との相乗効果を説明
連携協定は“地域経済の早期復旧に寄与”する点が高評価。
防災投資は「売上維持効果」「従業員安全確保」を定量化して記載することで、補助金の公益性を裏付けられます。
サンプルテンプレートで学ぶ書き方
以下のテンプレートをダウンロードし、自社データをはめ込むだけで70点以上の計画書が完成します。
書式は国の様式に準拠し、入力ガイド付きで初心者でも迷わず書けるのが特長です。
重要なのは“空欄を作らない”ことと“図解を1ページに1点以上”入れて視覚的に訴えること。
審査員は大量の書類を読むため、図表があるだけで理解度と印象が大きく向上します。
税制優遇で設備投資コストを大幅軽減!対象設備と特例措置の条件
税制優遇はキャッシュアウトを直接削減できるため、補助金よりも即効性が高い施策です。
ジギョケイ認定を受けると、特別償却20%または税額控除10%のいずれかを選択できるほか、固定資産税の3年間1/2軽減も上乗せされます。
設備投資の規模が大きい企業ほど恩恵が大きく、1,000万円の設備なら法人税と固定資産税で合計200万円以上の節税効果が期待できます。
対象設備一覧と投資金額の目安
| 区分 | 主な設備 | 参考価格 |
|---|---|---|
| 電源確保 | 非常用発電機・蓄電池 | 300万〜2,000万円 |
| 浸水対策 | 防水扉・止水板 | 100万〜500万円 |
| 建屋補強 | 耐震補強工事 | 500万〜5,000万円 |
| 情報保全 | サーバーバックアップ装置 | 50万〜300万円 |
税制特例の適用条件と期限
適用期限は令和7年3月末取得分までで、取得日と設置日がまたがる場合は“設置完了日”が基準となります。
申請には、ジギョケイ認定通知書と設備の見積書・仕様書を添付し、決算確定前に税務署へ届出を行う必要があります。
期日を過ぎると優遇が受けられないため、スケジュール管理を徹底しましょう。
償却資産税・法人税がどのくらい軽減できるか具体的に試算
例として、1,500万円の非常用発電機を導入した場合、特別償却20%(300万円)を使うと、34%の法人実効税率で102万円の節税。
さらに固定資産税1/2軽減を活用すれば3年間で約45万円削減できます。
合計147万円の税負担が減る計算となり、投資額の約10%を初年度で回収できるインパクトがあります。
税制優遇を逃さないための事前審査書類
- 設備の選定理由書(災害時の操業継続に必須であることを記載)
- 工事契約書・納品書の写し
- 設置完了を示す写真(日時入り)
これらを経理部門と共有し、決算日前に税理士へレビューを依頼することで、手戻りを防ぎ確実に優遇を享受できます。
日本政策金融公庫などの低利融資・金融支援を最大限活用する方法
補助金や税制優遇で賄えない残額を埋めるのが低利融資です。
ジギョケイ認定企業は日本政策金融公庫だけでなく、商工中金や地域金融機関でも優遇利率を利用でき、資金繰りの柔軟性が格段に向上します。
上手に活用するには“金利”“保証料”“返済期間”を総合的に比較し、自社のキャッシュフローに最適化することが不可欠です。
日本政策金融公庫の融資メニューと利率比較
| 融資制度 | 上限額 | 利率(年) | 据置期間 |
|---|---|---|---|
| 中小企業事業 | 7.2億円 | 基準金利-0.9% | 5年 |
| 国民生活事業 | 4,800万円 | 基準金利-0.5% | 3年 |
信用保証協会付き特別枠の活用術
保証協会のセーフティネット保証4号・5号と併用すれば、通常枠とは別に2.8億円まで保証が受けられます。
保証料率も0.2〜0.3%下がるため、借入コスト全体を圧縮できます。
金融機関に提出する際は“別枠”であることを明示し、総保証枠を超えない形で資金調達計画を組み立てると承認がスムーズです。
資金繰りシミュレーションと返済計画の立て方
資金繰り表は月次ベースで最低3年間作成し、売上減少シナリオと設備故障シナリオの2パターンを用意しましょう。
返済額は営業CFの70%以内に抑えるのが安全圏で、余裕資金が生まれたら繰上返済よりも“防災資金留保”が推奨されます。
金融機関への説明で押さえるべきポイント
- ジギョケイ認定で信用度が向上している事実
- 補助金・税制優遇との総合資金計画で返済可能性が高いこと
- 発災時の減収リスクを織り込んだ保守的な試算
これらを資料化し、決算書だけでなく“月次推移”や“KPI達成率”を示すことで、金融機関はあなたの企業を“リスク管理が行き届いた先”として評価します。
事業継続力強化計画認定審査に落ちない!策定・申請手順とチェックリスト
ジギョケイの認定率は約80%と高いものの、残り20%は書類不備やリスク評価不足で不認定になります。
ここでは策定から提出までの工程を4ステップに分解し、最後に“不認定チェックリスト”で漏れを防ぎます。
自己診断で全項目を満たせば、認定率はほぼ100%まで高められます。
策定STEP① リスク評価と対策の洗い出し
ISO22301のフレームワークを応用し、自然災害・感染症・サイバー攻撃の3カテゴリーで“発生頻度×影響度”をマトリクス化。
高リスク領域には必ず具体的対策を紐付け、対策コストと期待効果をセットで記載します。
策定STEP② カネ・モノ・ヒトの体制整備
カネ=緊急資金500万円の確保、モノ=3日分の燃料・水・食料備蓄、ヒト=代替要員リストと連絡網整備、という具合に定量目標を設定します。
数値目標は審査で高評価を得る鍵です。
申請書・計画書の提出先と必要書類一覧
- 様式第1号 計画書
- リスク評価シート
- 直近2期分の決算書
- 商業登記簿謄本
提出先は本社所在地を管轄する経済産業局ですが、認定支援機関経由で事前確認を受けると不備が激減します。
審査で落ちるNG例と評価基準の裏側
NG例の多くは“対策が抽象的”“定量データがない”“連携体制が未記載”の3点です。
審査員は「地域経済に貢献するか」を重視するため、サプライチェーンや自治体との連携を必ず盛り込みましょう。
認定後の運用・見直し・従業員連携で事業継続力を向上させる
認定はゴールではなくスタートです。
運用・訓練・見直しを継続しなければ、いざというとき計画が機能しません。
ここでは“PDCAサイクル”を1年単位で回す具体的手順を紹介します。
認定後1年以内にやるべき運用チェック
①防災設備の稼働確認②備蓄品の賞味期限管理③連絡網の最新化――を四半期ごとに点検し、結果を“運用報告書”として保存します。
報告書は補助金の事後確認や金融機関のモニタリングにも活用できます。
訓練・教育で従業員の防災意識を高める方法
年2回の避難訓練に加え、eラーニングで防災クイズを実施すると参加率が向上します。
訓練後はアンケートで改善点を集め、次回計画に反映させましょう。
継続的な見直しで計画をアップデートする手順
経営環境が変化したら、計画の“想定被害額”と“対応体制”を必ず再計算します。
例えば新ライン増設による電力需要増は、発電機容量見直しのサインです。
取引先・地域との連携でレジリエンスを強化
サプライヤーと“相互支援協定”を結び、発災時の部材供給を確保。
地域自治体の防災会議にも参加し、公共避難所との連携を構築すると、企業価値だけでなく地域貢献度も向上します。
よくある質問:期限切れ・対象外・『認定されました』後の課題Q&A
期限切れになった場合の再申請プロセス
認定は5年間有効ですが、更新手続きは有効期限の6か月前から受付開始。
再申請時は変更点のみ記載すればよく、初回より負担は大幅に減ります。
業種・資本金で対象外になるケースと回避策
製造業で資本金3億円超、従業員300人超は対象外ですが、子会社を分社化して中小企業基準内に収めるなどの方式があります。
税理士と相談し、組織再編で条件を満たすケースも多数あります。
『認定されました』後に起こりがちな課題と対処法
課題は“形骸化”と“コスト負担”です。
対処法として防災投資を損金算入し、従業員KPIに“訓練参加率90%”を組み込み、PDCAを制度化しましょう。
よくある誤解と最新Q&A
- Q:BCPがあればジギョケイは不要?
A:ジギョケイは認定制度であり、補助金・税制優遇の入口になるため双方を併用すべき。 - Q:費用はかかる?
A:計画策定は自社で行えば無料。
専門家依頼でも5万円~10万円が相場で、優遇メリットで十分回収可能。
